本編ラストの直前、22曲目に放たれたのは「Buggie Technica」だった。10代のハヤシが初めて作ったポリのオリジナル曲で、そこから20年ずっとライブのハイライトを作り上げてきたインストゥルメンタルの名曲だ。
インストと言っても、最初に「We Are POLYSICS…on drums Masashi Yano…」というふうにヴォコーダー・ボイスでメンバー紹介があるのだが、そこで最初に飛び出すのが「on guitar Ryo Nakamura…」の名前であることがやけに新鮮。そして、その新鮮さを味わうのもこれが最後だろうな、という実感があった。ツアー〈“That’s Fantastic!” Hello! We are New POLYSICS!!!!〉のファイナル。昨年10月の電撃加入から半年足らずで、ナカムラリョウはすっかりポリシックスに馴染んでいた。
年明けから始まった全22箇所の全国ツアー。ナカムラが入った新体制お披露目ツアーであり、あとは前回のレポートで書いたとおり、毎回セットリストにテーマを掲げ、時にはヘンテコなキャラ設定で爆笑を生むツアーでもあったけれど、結局これは最新アルバム『That’s Fantastic!』のリリース・ツアーなのだと改めて感じるファイナルだった。テーマは〈We are New POLYSICS!!!!〉。当然、ニューアルバム収録曲がメインである。
オープニングSE兼一曲目となる「That’s Fantastic!」では、ヤノ、フミ、ナカムラがまず演奏を始め、歌の入るタイミングでハンドマイクのハヤシが登場。音のことはメンバーに任せきり、自ら率先してフロアを煽っていく「いかもフロントマン」なスタイルが、このツアーですっかり定着している。ナカムラにも緊張の様子はなく、ヤノとフミの牽引力に自然と歩調を合わせている。もっとも「自然」というには、凄まじい音量と下腹をえぐってくる音圧がハンパないのだけど、この爆音の快感こそポリシックスだ。
アルバムの曲順どおりに進む3曲目の「Cock-A-Doodle-Doo」。ニワトリの謎について歌うナンセンスな曲で、タイトルを連呼しながらクチバシの形にした両手を千手観音のごとくに動かしているハヤシに笑ってしまったが、ふと気づいたのは、この曲は速い、ということだった。
そもそもポリの曲は「性急・ハイテンション・姦しい」の条件が揃ってナンボみたいなところがあるが、新曲群はその第一条件からあっさり解放されている。もうトシだから高速ビートが無理みたいな話では全然なくて、性急であらねばならない、の思い込みから自由になっている感じだ。ゆったり踊れるファンキー&キュートな「ルンバルンバ」、音数を下げることで空間を意識させ、同時にヤノやフミの存在がより際立って聴こえる「Pretty UMA」「Shut Up Baby」なども然り。3人から4人になることで、どれだけ余裕が生まれ自由が増えるのか。そんなことを改めて感じさせる。もちろん、どの曲も「ハイテンション・姦しい・ポリらしい」という条件からはまったく外れてはいない。
そういう新曲たちに挟まれて披露された「MEGA OVER DRIVE」と「How are you?」には、旧体制との違いが如実に感じられた。前者はシンセサイザーがメイン、以前はギターレスで完成していた凶暴なダンスミュージックなのだが、ここにナカムラのギターが加わることでハードコアな迫力が倍増。凄まじい破壊力に全身の血が沸騰する。当初からハードな曲ではあったけれど、ここまでブチ上がる曲だったか? と怯んでしまうほど。
そして「How are you?」の驚きは、闇雲に突っ走ろうとするスピードについてだった。これはカヨ卒業後の最初のシングル曲であり、音には3人の〈過去を振り切る!〉という意識がギチギチに詰まっていたと思う。もちろんその猛ダッシュがあったからこそポリシックスは2010年以降も我が道を進んでいけたのだが、そこから7年後にギター兼シンセサイザーが入り、これだけ自由なバンドになるとは誰にも想像できなかっただろう。フミのボーカルでサクサク進んでいくメロディと、暴走するドラム&シーケンス。サビで一緒に歌い出したハヤシが「オン・ギター、ナカムラリョウ!」と叫び、以前ハヤシがやっていたギターソロをナカムラがお立ち台で堂々と弾き始めた時に、あぁ、と思った。ポリシックスはすっかり4人のバンドになっているんだ、と。
後半のMCで今回のツアーに触れ、たとえば仙台ではマシンのトラブルで20分くらい演奏ができなかった、その間フミがひたすらトークで繋いだ、などのエピソードを明かすハヤシ。「テクノバンドだからね」と語りつつ、「なきゃないで、何とかするけど」と笑うところにライブバンドの矜持を見る。シーケンスのピコピコ音がなければポリの魅力は半減するだろうが、それがなくても十分に観客を圧倒できるテクニックがありプライドもある。バラードはもちろん、箸休めになるような遊びの曲は皆無。とにかくハイテンションで姦しく、意味不明ながら爆笑できる面白さの詰まった曲ばかり。それを20年というのは正気の沙汰ではないが、まさに正気の本気でやり続けてきたのがハヤシヒロユキなのだ。そこにフミが、次にヤノが巻き込まれ、今ではナカムラもがっちり加わった。そういう歴史が、まったく感動とは無縁の爆音になっているのが最高だ。
後半は鉄板ナンバーのオンパレード。本日初のモッシュピットとクラウドサーファーが勃発した「SUN ELECTRIC」や、代表曲と言いたいほどの盛り上がりを見せる「シーラカンス イズ アンドロイド」。冒頭に書いた「Buggie Technica」に、4人全員が両腕をクロスするポーズから始まるラストの「URGE ON!!」など。メンバーの温度にまったくズレはない。ギターソロでガンガン前に出ていくかと思えば、シンセの前で暴れまくっているナカムラを見ながら、「今から4人になるって? マジで?」と驚いていた昨年の秋が嘘みたいだなぁと考えていた。
アンコールはハヤシが「デビュー曲!」と紹介した『1st P』収録の「PLUS CHICKER」。そして1999年の「Modern」、2003年の「カジャカジャグー」と初期のナンバーで締められた。ナカムラはもちろんヤノも加入していない時期の曲だが、そこに違和感はない。メンバー交代は初期のほうが激しかったけれど、リーダーたるハヤシの趣味が結成当時から今日まで何ひとつブレていないから、懐かしさも気恥ずかしさも感じない。若さゆえの情緒と切り離されているから、時間の経過に左右されない。これもポリシックスの揺るぎない魅力だろう。
昨年の3月4日からスタートした20周年アニバーサリー・イヤー。祝福すべき一年が終わってしまうことを惜しむ様子もなく、「明後日の12時には21周年目になる」、そして「新体制になって、まためちゃくちゃ新しい曲が書きたくなってる」と、未来について頼もしい展望を語ったハヤシ。そうこなくっちゃ。これからも楽しませてくれよ。そんな笑顔が汗まみれのリキッドルームには溢れ返っていたのだった。
文・石井恵梨子
昨年3月から始まった20周年アニバーサリーも残りわずかとなった現在。まさかの新メンバー加入を発表したポリは、ニューアルバム『That’s Fantastic!』を完成させ、新体制お披露目ツアーを行うところから2018年をスタートさせた。
初日の千葉ルックは、新作のタイトルナンバー「That’s Fantastic!」からスタート。ツインギターの厚みやアフロビートの導入など、新しいポリの魅力がわかりやすく詰まった一曲だが、ライブになると視覚的効果も倍増。なんたってヤノ、フミ、ナカムラの3人が豪快に演奏を始め、歌の入るタイミングでハヤシが登場、ハンドマイクで勢いよく客席に突っ込んでいく「いかにもフロントマン」然としたパフォーマンスなのだ。当然3人体制では不可能だったもの。各自が忙しなく担当楽器を変える以前のパフォーマンスもスリリングで良かったが、千葉ルックのようにステージの低い小バコでは伝わりづらかったかもしれない。分厚い音圧、どっしり構える楽器隊と、思いきり動けるフロントマン。この「いかにもバンド」なスタイルが、今のポリシックスには新鮮なのだ。
だからこそハヤシも絶好調かと思いきや、5曲を終えたタイミングで「トイス」と素っ気なく挨拶(?)するのみ。高音域に突き抜けるお馴染みの「トォーーイス!!!」ではない。そして「ガンガン行くぞ」と言うなり、すぐさま次の曲に突入していく。え? と思う。
普段ならタガが外れたように「トォーーーイス!」を連呼、「まだまだ20周年おめでトーイス!」、あとは時節柄「あけましておめでト一イス!」などで盛り上がるMCコーナーが始まるところだ。実はこのツアー、全22公演に対していくつかのテーマが設けられており、全公演セットリストや全体のムードがガラリと変わるのだという。この日のテーマは〈俺は男だ!〉。どのへんがどう〈男〉なのか全然わからないまま、とりあえずハイテンションの「トォーーイス!」がない、という事実は受け取めた。この日フミのボーカル曲が極端に少ないセットだったのも、〈男〉というテーマありきのことだろう。
2本のギターに怪獣の雄叫びが入って過去最高の迫力を手に入れた「怪獣殿下~古代怪獣ゴモラ登場」、ダンスビートにギターが絡むことでよりモダン&ラウドになった「Everybody Say No」など、バラエティ豊かな曲調にそれぞれプラスαが感じられるのが嬉しい。新曲はさらに興味深く、BPMが低く音数も少ない「Shut Up Baby」でフロアがゆったり揺れ続ける、なんて光景は今までになかったものだ。いつでも姦しくストレンジなのはポリの類稀なる個性だが、4人体制になったことで空間を楽しむ余裕ができた。ひとりプラスされたことで引き算の楽しみを覚えたのだろう。猛スピードで突っ切るだけでなく、さまざまなビートやリフを組み替えながら空間の広がりを味わえる箇所が多数。そこが今のところ一番の収穫だった。
なお、〈俺は男だ!〉のテーマがいよいよ明らかになるのはMCコーナー。「お前ら最高だぜ! まだやれんだろ?」「新しくナカムラリョウが入ったぜ!」「まだアルバム買ってないヤツいるか? ……殺す!」など、普段のハヤシではありえない硬派な発言が続く。最初こそ「ハヤシ、どうした?」とクスクスしていた観客も、そのうち「あ、今日はそういうキャラというかプレイなんですね」と理解した様子。お互い失笑をこらえながらのMCは、よく聞けば意味不明な珍言の連続で、「おめえら、喉を突き刺す……喉を突き刺すような感じで、思いっきり向かって来い!」と煽っていた姿には本気で吹いてしまった。翻訳すれば「まだまだ暴れろー!」なのだろうが、それにしても「喉を突き刺す感じ」ってなんだ? ぼんやりとチバユウスケの顔が浮かんで、目の前にいるハヤシとの対比に、また大きく吹き出すのだった。
「Shout Aloud!」や「URGE ON!!」など怒涛のナンバーで本編を締めたあとはアンコールに「Buggie Technica」。ハヤシはギターを持ったまま豪快にダイヴをかまし、続いてナカムラも迷うことなくフロアに突っ込んでいく。二人が交互にギターソロを弾くシーンなどは音圧的にも視覚的にも新鮮極まりない。全力で汗をかきつつ、ハヤシは最後まで〈俺は男だ!〉キャラを崩さなかった。あくまで余裕のあるイイ男ふうに「……良かったろ?」と言ってのけたのも最高だ。
なお、ここからは始まったツアーには、〈TOISU禁止令〉〈ハヤシお兄さん〉〈来日公演@東京ドーム〉など、想像するだけで笑えるテーマがそれぞれ付随していく。毎回どんなキャラクターのハヤシが見られるのか、どんな珍事件が起こるのか、ここも大きなお楽しみポイントになりそうだ。ツアーは3月2日の東京リキッドルームまで、休むことなく続いていく。
なお、終演後の楽屋を覗いたところ、話題になっていたのはハヤシが演じきった〈俺は男だ!〉キャラの謎であった。モデルがいるのかと聞けば「ロックスター。っていうかチバさん」と白状するハヤシ。スタッフが「千葉だけにね」とダジャレを言い、ナカムラリョウが爆笑している。なんとなくチバユウスケのイメージは伝わったと答えると、「そこまでわかってもらえたら大成功!」とフミが大喜び。そのフミは、ハヤシが「アルバム買ってないヤツ、殺す」と言い放った瞬間吹きそうになり、ともかく下を向いてやり過ごすしかなかったと語っていた。要するに「MCがずっと笑ってはいけない状態。電車の中で『浦安鉄筋家族』読むみたいなもんですよ!」と、これはヤノの弁だ。
和気藹々とした空気に触れながら、ポリシックスだなぁと思う。単に仲が良いだけでなく、毎回「そんなこと思いつく?」「そこに意味あるの?」というネタを編み出して、それを自分たちで笑いながら超えていく。今回のツアーも、新体制と新曲のお披露目というだけで充分成り立つはずなのに、あえてヘンテコなテーマを持ち込んで、さらにバンド内の空気を盛り上げているのだ。それは意図しないところで、絶妙なルーティン回避にもなっているだろう。
周年のアニバーサリー。往々にしてスタッフやファンの声に「乗せられる」バンドが多いし、神輿に乗ってしまったほうがラクなのも事実だが、ポリシックスはまだまだ自分たちの手で引っ掻き回す。新しいビートを取り込み、新メンバーを入れて、さらに新しいゲーム(?)もおっぱじめて。まだまだフレッシュ。このバンドは一生錆びないなぁと思いながら帰路についたのだった。
文・石井恵梨子
POLYSICSの結成20周年記念対バンツアーファイナルであり、新メンバーナカムラリョウ(Guitar,Voice,Synthesizer)加入のお披露目ライブである『POLYMPIC 2017 FINAL!!!!』が、10月14日に渋谷・TSUYATA O-EASTで、ゲスト・バンドにCHAIとグループ魂を迎えて行われた。
チケット完売、超満員のフロアの前にまず登場したのはCHAI。「今日はみんな初めましてTOISU! POLYSICS20周年おめでTOISU! そして何より、呼んでくれてありがTOISU!」というあいさつに続いて、ミニ・アルバム『ほめごろシリーズ』の1曲目「Sound&Stomach」でスタート。
物販やCDの宣伝をマドンナ「マテリアル・ガール」にのせて歌い踊る「自己紹介」ではマナ(Vocal,Keyboard)とカナ(Vocal,Guitar)が10月25日リリースのファースト・フル・アルバムのジャケットを振り回して告知、後半ユウキ(Chorus,Bass)とユナ(Chorus,Drums)も加わってダンス、そして決めポーズ。「ボーイズ・セコ・メン」では、カナが英語でMCでするとユウキが「いい男はだいたいセコい」と通訳する──。
という、CHAIの定番をしっかり見せていくステージが、彼女たちを初めて観るPOLYSICSファン・グループ魂ファンに大ウケ。何度も大きな歓声と拍手が挙がった。なお、5曲目でニュー・アルバム収録の新曲「N.E.O.」も披露した。
「女は、POLYSICSである」という港カヲルの前口上で幕を開けたグループ魂のステージは、POLYSICSのカラーに合わせたのか、「ペニスJAPAN」「君にジュースを買ってあげる」「押忍!てまん部」「高田文夫」等、彼らの中でもパンキッシュでハードな曲が並ぶセットリスト。
ドラムソロをやめない石鹸を「俺らジャズやってんだよ! ふざけんな!」とカヲルさんが往復ビンタしたり、POLYSICS結成20周年のお祝いのメッセージという体で始まった「大江戸コールアンドレスポンス」で「ポリシックス!」「ポリ袋!」「ポリネシアンセックス!」と掛け声が暴走して行って収拾がつかなくなったり、いつもに増して自由極まりないステージに、O-EASTは終始爆笑に包まれた。
そしてトリのPOLYSICS。後方にヤノ(Drums,Voice)ひとり、フロントにフミ(Bass,Synthesizer,Voice)・ハヤシヒロユキ(Guitar,Voice,Synthesizer,Programming)・ナカムラリョウの3人が並んだ新鮮なフォーメーションに、オーディエンスは大きな歓声を送る。
途中までSE・途中から生演奏の「Introduction!」から「Buggie Technica」「SUN ELECTRIC」と、POLYSICS定番のオープニングだが、時にギター、時にシンセを操るナカムラリョウの活躍によって、他メンバー3人の(特にハヤシの)自由度がこれまでより格段と上がっていることが、この3曲ではっきりわかるステージ。5曲目「Digital Coffee」ではハヤシ、ギターを置いてハンドマイクになり、フロア前方のお客さんたちと握手して回る。
「今日出演してくれたCHAI、そしてグループ魂、どうもありがTOISU! なんて言うんでしょう、千鳥っぽく言うと、クセがすごい3バンドが集まったと思います! なかなかないっすよ、こんな日は」とハヤシ。
そして新メンバー、ナカムラリョウを紹介。「あだ名募集中なんで」とフロアに呼びかけるとすかさず「中村屋!」と声が飛ぶ。
「Young OH! OH!」「カジャカジャグー」「I My Me Mine」「each life each end」と、ライブ鉄板曲を並べた中盤を経て、ハヤシが再びMC。
今日のお披露目ライブの前に「THE TOISU!!!!」という名前でシークレット・ライブを4本やった、観た人が「TOISU!!!!ってポリじゃん!」とツイートして情報が拡散されることを期待したんだけど、なんて空気の読めるファンでしょう、誰もバラさなくてまったく広がらなかった、それで千葉でやったワンマンは50人しか来なかった、おまえらもっとバラせよ!──とキレるハヤシに、みんな大笑い。「よくできたコピー・バンドだ」「いったい誰なんだろう?」などと、嘘に加担するツイートまであったとのこと。
「Tune Up!」で始まり「Shout Aloud!」まで駆け抜けた後半でも、4人編成の音の強靭さ、パフォーマンスの自由さを存分に見せつけ、本編が終了。
アンコールでは、結成20周年企画として行った『わらしべ長者リターンズ~次こそ目指せ一戸建て!~』で家を目指してハウス(食品)に到達した、今日はみんなにお土産がある──と、帰りに全員にハウスのハヤシライスをプレゼントすることを伝える。
そして、この4人で作ったニュー・アルバムが11月29日にリリースされること、年明けからそのツアーを行うことを発表。ニュー・アルバムのタイトル・チューン「Thatt’s Fantastic!」をライブ初披露。続いて「Let’s ダバダバ」「Electric Surfin’ Go Go」のキラー・チューン2連発でイベントを締めくくった。
「結成20周年記念TOUR“That’s Fantasic!”~Hello! We are New POLYSICS!!!!」は、2018年1月11日千葉LOOKを皮切りに、3月2日リキッドルームまでの全22本が行われる。
以上、POLYSICSの所属レーベルであるところのキューンミュージックにご依頼をいただいて書いた、ニュース原稿でした。ニュース原稿として、自分の主観や私感はなるべく入れずに書いたものなので、ここからそれを書きますね。
まず。4人になったPOLYSICSがステージに揃った段階で、テンションが上がった。
ハヤシ・サコ・カヨ・スガイ、ハヤシ・カヨ・フミ・スガイ、ハヤシ・カヨ・フミ・イシマル(サポート)、ハヤシ・カヨ・フミ・ヤノ、の「4人POLYSICS」全パターンのライブを観たことがあるが、考えたらギターが2本いるのは今回が初めてなのだった。
今頃気づくなバカ、と自分でも思うが、フミ・ハヤシ・ナカムラリョウの3人がベース・ギター・ギターを構えてフロントに並んだだけで、ガラッと新しく変わった感がとてもある。
で、ライブを観て、今回のこのナカムラリョウ加入は、「ひとり入れたい」という思いが先にあってメンバーを探したのではなく、ナカムラリョウという個人に出会って、「こんな男がいるならバンド入ってほしい」という順番だったのではないか、と思った。
実際はどうなのか知らないが、そう思わせる、POLYSICSへのジャストフィットぶりだった、ナカムラリョウ。
言い方がよくないが、あえてこの言葉を使う。便利! とにかく便利! ギターもシンセも演奏力確かだし、出しゃばらなくて控えめだし、かといって影が薄いわけじゃなくてしっかりキャラあるし。
ハヤシくんにとってまさかこれほど便利な存在が現れるとは! と、つくづく思う。ハヤシくんのライブ・パフォーマンス、ものすごく自由度が上がっていた。逆に言えばこれまでひとりで3人分くらいの労働量だったということなわけだが、ただ、器用でうまいミュージシャンならこの役割が務まるのかというと、全然違う。
これ、うまく説明できないのだが、そういう意味で役に立つ上に、何よりも、POLYSICSに合っている、ハマっている、ということだ。なじんでいるけど異物感もある、でもバンドに入ったからあの格好させられてるみたいな借り物感はない。
本当に絶妙な人を見つけたと思う。で、ハヤシくんの自由度が上がるということは、その分音源制作においてやれることの可能性も大きく広がるわけで、この新体制で作ってすでに完成しているというニュー・アルバムがいっそう楽しみになった。
文・兵庫慎司
ポリシックスの結成20周年を記念し、6月から始まったツーマン・ツアー〈POLYMPIC 2017〉。Wiennersに始まり、モーモールルギャバン、キュウソネコカミ、岡崎体育、パスピエなど多彩なゲストを迎えて全国を回り、ついに迎えた東京公演。渋谷クアトロ3デイズである。
初日7日はベボベことBase Ball Bearが登場。ポリとベボベ? 最初はファンが混ざり合う様子があまり上手くイメージできなかったが、蓋を開けてみれば会場には「こいちゃーーん!」と小出祐介に野太い声援を送る男性ファンが多数。なるほど、パッと見は線の細そうな文系青年に見えるが実際はかなりマニアック。そんなリーダー像はハヤシと似ているかもしれない。もちろんポリより爆音は控えめだし、もっとスタイリッシュでポップなギターロックなのだが、コード進行やフレーズには予測不可能な癖がたっぷりだ。また、周知のとおり彼らは昨年ギタリストを失ったばかり。結成16年目というキャリアに裏打ちされた実力がありつつ、サポートの弓木英梨乃がやけにフレッシュな笑顔を振りまいていて、多少アンバランスな今の佇まいも新鮮だった。後半に進むにつれどんどんダンサブルにアガっていき、小気味よく駆け抜けていった45分間のステージだった。
そしてポリシックス。三日間の対バンを考えればベボベが一番ポップで爽やかなことを意識したのか、この日は同じく爽やかポップな“初心者入門編”っぽい曲が並ぶ。SEのあとは「SUN ELECTRIC」、「Let’sダバダバ」で始まり、MCを挟み「Baby BIAS」といった具合で、フロアには終始楽しげな手拍子とユーモアたっぷりの振り付けが溢れ返っている。またハヤシはいつもながら異様なまでのハイテンション。MCでは20周年の「おめでトイス」をファンの口から言わせようと躍起になり、挙句、フロアの声が大きくなりすぎてうろたえる一幕も。無邪気なのか天然なのかヘタレなのか、いやその全部だろ、みたいな様子に思わず吹いてしまう。笑わせようと目論むギャグバンドではないし、媚びるようなあざとさもないのだが、常にユーモラスであろうと全力で頑張る姿が思わぬところでファンの心を掴むのだ。MCも含めて毎度恒例のパターンにならないこと。毎回フレッシュで偶発的な何かを起こせること。これは本当に、真似しようと思っても真似できない個性だと思う。
アルバム『Replay!』収録曲をメインに構成されたセットリストだが、中盤にはあの作品に入らなかったレアな旧曲を特別にリプレイするコーナーが。この日は2001年の『ENO』に収録された変拍子の「WEAK POINT」だ。あんまりやらなくなったのはサビが恥ずかしいから、と正直に申告してしまうハヤシと、じゃあそのあたりを意識しながら聴いてください、と一刀両断するフミのMCに再度吹き出す。そういう曲も“なかったこと”にせず、再び3人体制バージョンでリメイクを試みるのは“打ち込み家”の執念(ハヤシには“音楽家”とはまた違う、この言葉でしか言い表せない偏愛がある)。でも結果的に、あぁなるほど普段よりサビがエモくてちょっと照れますね、と皆に納得されてしまう。こだわり抜くわりに妙な隙のあるところも彼の愛すべき長所なのだ。なんてことを再確認しつつ、『ENO』の隠れたエレポップ名曲、またどんどん聴きたいなとしみじみ思う。
しかしライブではやはり暴走するポリが面白い。後半は鉄板の「シーラカンス イズ アンドロイド」から、最新曲にして最高にファンキーな「Tune Up!」、そして怒涛のモッシュピットが生まれる「URGE ON!!」へと続く肉弾戦。ハヤシは何度もダイブを繰り返し、客もバンドも清々しいほどのはちきれっぷりを見せる。20年前に作られた「Buggie Technica」が本編ラストとなったが、そこにはノスタルジーも若気の至りもなく、ただ、びっくりするほどフレッシュなエネルギーがあるのだった。
続く二日目はザ・バックホーンが登場。結成19年目の彼らはほぼ同期だが、泥臭くシリアスなメッセージ、激情的で和の情緒があるメロディなど、ポリとは対象的な個性を放っている。でも、変にオトナになって器用な処世術を身に着けることなく、山田将司いわく「昔からずっとこんな感じでやっている」ところが愛すべき共通項だ。ファースト収録曲が久々に連発されるなど、あえて初期を意識したセット。そのうえで、宇多田ヒカルと共作した最新バラード「あなたが待ってる」やファンキーでダンサブルな「導火線」などの最新曲を挟んでいくのだから、伊達に長くやっていないと思わせる説得力も充分だ。ハッピーな大団円というよりも、激しく汗臭い拳が次々と自然発生していくさまが、実にバックホーンらしかった。
相手の熱量を意識したか、この日のポリシックスはアグレッシヴに突き進む。昨日やらなかった「Tei! Tei! Tei!」でスタートダッシュをカマし、昨日は後半のダメ押しナンバーだった「URGE ON!!」がすぐさまブッ込まれるという具合で、とにかく愛嬌よりも破壊力がモノを言うセットリストだ。また、バックホーンの松田がバンドのグルーヴに合わせる比較的タメ気味のドラマーなので、ヤノがいかにシャープかつスリリングな叩き方をしているかが如実にわかったのも大きな収穫。高速デジタルビートが張り巡らされたシーケンスを前にして、これだけ凄まじいテクニックと存在感をアピールできること。それ自体がヤノの圧倒的な強さなのだ。
さらに「DTMK未来」ではフミのベースの攻めっぷりに舌を巻いた。これもまたポップさをあまり重視せず、ドラム/ベース/ギター/シーケンスをどうヘンテコに組み合わせていくかで破壊力120%に到達していくタイプの曲。歌にもともと意味はないしメロディだって必要ない。楽器と電子音だけでフロアを掌握できるのだ。ロックバンドとしての実力、ライブバンドとしての魅力を、あらためて痛感するシーンがなんと多かったことか。
またこの日の特別リプレイ曲は「Marshmallow Head」。ミニアルバム『MEGA OVER DRIVE』のカップリングとして作られた4年前のナンバーだ。ライブで聴いた記憶はこれまで皆無だが、いざ始まったこの曲がめちゃくちゃ良かった。サイバー・ハードコアパンクというのか、ミニストリーみたいな重戦車級の勢いがあり、中盤には意味不明だがやたら笑えるギャップも用意され、また重戦車サウンドに戻って2分半でズバッと終わる。いや、お見事。普段のライブでもどんどんやっちゃって欲しい曲である。
後半はこれまた暴走の一途を辿るが、昨日はやらななかった「Shout Aloud!!」が本編ラストというのも、この日の激しさと喧しさを物語る。もちろんハードなだけではないし、金色のポンポンが馬鹿みたいに輝き出す「ピーチパイ・オン・ザ・ビーチ」などはフロア全体が満面の笑顔に包まれていたが、全体としては、ポリがいかに強烈で強靭なサウンドを鳴らしているのかがよくわかる内容。一時間でかけるとは思えない量の汗を流しながら、でもまだまだイケるという余韻を少しだけ残し、3人は元気よくステージを去っていった。
いよいよ迎えた最終日。9日は峯田和伸の弾き語りスタイルで銀杏BOYZが登場した。事務所が同じでCDデビューも同じ99年。まさに同期の盟友だが、音楽性はまったく別。客層が分かれるのは当然だと思っていたが、ポリTを着用しながら峯田の一挙手一投足に注目し、ともに唱和するファンがこんなにも多いのかと驚かされた。たった一人でステージに立つ峯田がまったくひとりぼっちに見えないのは、ともに歌うファンの熱量があってこそ。「若者たち」「援助交際」「BABY BABY」などで起こる大合唱を見ていると、これはもしかすると銀杏BOYZのワンマンじゃないのかと思えてくるほどだ。「20年ずっと戦ってきた、全部、全敗。コールドゲーム。しまいにはメンバーも死に……」と自虐的に語ってはいるものの、歌う姿に悲壮感はまったくない。過剰な演出も肩肘張った様子もなく、ただ自分という存在をありのまま伝えようとする姿にひたすら引き込まれる一時間だった。
対バン相手がこうなのだから、この日のポリのテーマは“個性の強さ”しかないだろう。他に代替の効かない存在であること。他の誰かが思いつかない、思いついてもまずやらないアイディアを提示できるバンドであること。SE兼一曲目の「P!」でハヤシが意気揚々とホイッスルを吹き、ド迫力の生演奏に突入した瞬間、確かにこんなバンド他にいないわと笑いがこみ上げてくる。嬉しさ、楽しさ、気持ちよさ、格好よさ、意表を突かれる痛快さ。その全部が混ざり合った笑いだ。三日間ともに『Replay!』収録曲がメインだが、この日は前半に「ムチとホース」が飛び込んでくる。架空の競馬実況だなんて、こんな変な曲がなんで生まれた? そんなツッコミを入れたいが、音が面白いから暴れるのが先になってしまう。こういう面白さがポリシックスだけの個性だ。タイトルも含めてポリらしさの塊と言える「カジャカジャグー」も、満を持してこの日に登場。連日セットリストが違っているのも心憎い限りだった。
最終日の特別リプレイ曲は「NEW WAVE JACKET」のカップリング「SPARK」。知られざる名曲かと思えば歓喜にどよめくファンが多数。みんなマニアックだなぁ。カラフルでキッチュ、どこか子供っぽい愛らしさを残した16年前の曲が、最新曲「Tune Up!」とほとんど変わらないテンションで響くのも素晴らしい。そこから「MEGA OVER DRIVE」「URGE ON!!」「SUN ELECTRIC」と突き抜けていくラストの大団円。常に叫んでは飛び跳ねてギターを掻き鳴らすハヤシを見ていると、本当に“元気!”という言葉以外出てこないから困ってしまう。年齢や重ねてきた時間を考えると“ちょっとおかしいんじゃないの?”とすら思えてくる。オトナの余裕もまったりする時間も一切なし。これを三日間、いや、20年間ずっとやってきたのが彼らなのだ。
アンコールはスペシャル企画。ステージに出てきたのはハヤシと峯田和伸だ。対バンは10年ぶりという二人が、せっかくだからと初の共演を果たしてみせた。曲は銀杏BOYZの「あいどんわなだい」。キラキラしたディスコパンクのような同期サウンドに乗って峯田が叫び、ハヤシがギタリスト兼コーラスで華を添える。この日だけの貴重なシーンに客席は異様な盛り上がりを見せていた。そのあと「これで〈POLYMPIC 〉が終わっちゃうのは寂しいような……」とのMCがあったが、そこから続いたのは〈POLYMPIC 2017〉はまだまだ終わらないという嬉しいニュース。今年の10月14日(トイスの日!)にファイナル公演が行われること、さらには翌週に大阪BIGCATで関西限定イベント〈POLYONSEN 2017〉が行われることも発表された。現在は新作に向けての制作が進んでいることも明かされていたので、20周年イヤーは後半さらに盛り上がっていくのだろう。
最後はフミとヤノが戻り、いよいよのオーラス「Baby BIAS」と「Buggie Technica」が放出される。初日にも書いたことを再び記しておこう。ノスタルジーも若気の至りもなく、ただ、びっくりするほどフレッシュなエネルギーを放っているポリシックス。なんというか、もう、国宝級だな!
文・石井恵梨子